勘違い

木の葉崩しの終わりから少したって―――あの作戦は結局、成功も失敗もしなかったけれど、たしかに影響はあって、けれどその揺らぎも納まりかけていた。そんな時に、先生が持ってきたのが、木の葉の新しい火影の直接の書簡で。
「…騒動の絶えない国だな」
思わずぽつりともらしてしまう。
「そういうな。サスケを追った忍を救援するのが今回の任務だ」
バキ先生は“先生”というよりは“お付き”といった感じ。
任務を持ってきたらその後は私たちに任せっきりになる。
簡単な物だろう、と少し笑って見せたから、ああ今回もかと思った。別に平気は平気だから構わないのだけれど。木の葉くずし以来、我愛羅との関係もずいぶん気楽なものになったし。
「…具体的に、三人とは?」
誰も質問しないから一番根本の事を尋ねる(たぶん、カンクロウは何も考えちゃいないし、我愛羅はそもそも興味などないんだろう)。
先生はさらりとその名前を口にした。
「中忍に昇進した奈良シカマルが集めたチームの残っている忍、だそうだ」





残っている、だって?
その言葉の意味するものの可能性が、いく通りか頭をよぎる。よぎったら、じわりと手の平に汗がにじんだ。
痛みを覚えそうに鳴る頭の、その麻痺してない小さな部分で、ふとほっとするような考えが出てくる。
―――中忍になったのか。
ほほ笑みそうになった次いで出てくる考えを、私は激しく振り払う。負けたのがあいつで良かったなんて思うものではない。違う。あんなやつに負けた、だ。
「テマリ」
カンクロウに呼ばれてはっと我にかえる。先生はもう部屋を出ていて、アカデミーの一室は私たち兄弟だけになっていた。我愛羅が壁にもたれて窓の外を見ている。カンクロウは突っ立ったままの私に歩み寄ってきながら尋ねた。
「どうかしたか?」
「何が」
「なんつーか、変な顔してたじゃんよ」
顔に出てたか。
不覚だ。
そう思ったのもまた顔に出たのか、向かいあったカンクロウが縁取りをした目元を可笑しそうに歪ませた。
「もしかして、心配しちゃったりしてる?」
「誰を」
「奈良シカマル」
額に寄っていた力が一気に形を変える。意に反して頬が引き攣る。あちこち固めたような表情をしているだろう私は思わず声を大きくした。
「誰があんなやつ!」
「でもテマリ、木の葉から帰ってからしょっちゅうアイツアイツっていってたじゃん」
「うるさい、」
黙れ、と言いかけて、また思う。
あんなやつに負けた。
あんなやつを恐いと思った。
―――あんなやつの事を考えて。あんなにも。
一体何が私のなかに残ったというのだろう?
誰があんなやつに。誰があんなやつを。
「…そんなんじゃない」
負けても良かったとか、心配だとか、そんなんじゃないと思いたい。
この逡巡はきっと全部勘違いなのだと思いたい。
木の葉を思い出す時のあの和らぐような気持ちも、さっきの暗くて嫌な不安も。
「いいから早く用意にかかれよ」
まだにやついているカンクロウを睨み付けて私は部屋を出る。
早く早くと焦るこの感覚も。会ったらどうしようという躊躇いも。
たくさん渦巻いている気持ちは全部勘違いなのだと。知らないものだと。思い込みたい。
まるで無理遣り言聞かせているみたいだというふと過る思いも含めてきっと。








 

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