奇跡
もう駄目だ。
そうやって諦めたときってのは数えるくらいしかないのに、そのたびに何かが起こるのはきっと奇跡ではないのだとシカマルは思った。
場違いな思考だった。
だから鈍くなったと笑われたのだ。
それなのに何だか楽しげに笑ったのだ。
やきついて離れない。
「どうして助けた」
テマリは一瞬、何をきかれたのか分からないかのように目を見開いた。それから、尋ねた内容が一応腑に落ちたのかいつものように少し額に力をいれた。きゅ、と眉根が寄って、顎が高慢な感じで僅かに上に向けられると、幾許かの身長差もあってか彼女が随分と大人びて見える。
「言っただろう。命令だからだって」
言い終えるとひょいひょいと幹を伝って地面へおりていく。その黄色い頭を目でなんとなく追いながらシカマルは眉を寄せる。
なんとなく、違う。
そういう答じゃない。
「あー…」
のろのろとテマリの後をおって地上に向かい、少し高さを残したところから跳びおりると、扇子を背負いながら彼女が訝しげに尋ねかえした。
「どうした、変な顔をするな…何か気掛かりでもあるのか」
「いや、他の砂のヤツらは、じゃあキバ達を助けにいったんだな?」
「そうだけど」
「なんでおまえなんだ?」
そう口にした瞬間。
ばつの悪い気持ちになるのと、テマリが眉を顰めるのと、どちらが早かっただろう。
「は?」
「…いや」
シカマルはやれやれ、と空を見上げる。彼女の術で豪快に切りひらかれてどこまでも広い空。最大の危機の時に限って奇跡が起こるなら彼女のその術も奇跡ではないし、それが行なわれた事も奇跡ではなくて。
じゃあ一体、何が?
…考えるのも面倒臭いくらい、途方の無いものに思えてきた。
ため息と一緒に視線も落とすと、ふと目を引いたのが目の前の金髪の房で。その髪に縁取られた表情は、さっきよりもいくらか感情を色濃くしていて、しかもそれはさっきとは別の種類のものだった。
「………」
自信満々で笑ってみせたり、楽しそうに笑ってみせたり。
いまは口を尖らせて、眉を顰めて。
(こりゃあ…もしかして、照れてんのか?)
答に手が届きそう。
届きそうなのに、自分のものよりすっと凛々しいテマリの声が、それをまた少し遠くへおしやるのだ。
「…感謝しろよ」
「…してるっつーの…」
もう一度やれやれと空を見上げて、シカマルはまた0から奇跡じゃない答を探そうとする。
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