11.猫



 猫がよくなつく方法をしっている。いつも同じ場所に、好物を置いておけばいいのだ。何が好きなのかを見定めるのには経験が必要で、そのために何回か一緒にいる必要があるし自分の弁当を分けてやる事だってしなければならない。つまり、根気良く、優しくいれば、猫は自分に気を許してくれるのだ。少なくとも今まで昼寝場所に現れた猫はそうだった。この経験則がこの世界の理だったらどんなに良かっただろう。根気良くいる事を執着しないというやり方に簡単に変えられたし、優しくしたつもりはなくても、結果そういうふうに取られる事が多いから、きっと頭など使わなくても上手く生きていけただろうとシカマルは嘆く。
「またここか」
 閉じていた瞼は日が透けて赤色で、目を開けた瞬間、青色に転じるギャップに驚いた。声の主はと起き上がり首をめぐらすと、テマリは大扇子を壁に立てかけて呆れた様子で座り込むところだった。
「もうきたのかよ、はえーよ」
「お前が遅いんだろ。全く、どういう了見だ、職務放棄か?」
 シカマルはため息をついた。中忍試験の世話役などかったるい事この上ない。ガキ共のお守じゃねーか、と思うと、数年間文字通りのそれを引き受けた、一見煙草を吸うか寝ているかでしかなかったあの大柄な上忍を少し尊敬しようかという気になる。けれど、アスマと今の自分と、さぼって寝ている理由は違う。
「そんなんじゃねーよ…俺とあんたがそろったら打ち合わせなんてはじめられンだから、そうカリカリすんなよ」
「それはすまない、でもお前に打ち合わせを始める気があるように見えないものでね」
 おどけたような言い方をして、テマリが今日始めて笑む。シカマルはまたばたりと仰向けに寝転んだ。空はいつものようなのに。まだ近寄ってこない。
 そんな事を思う自分がなんだかおかしい。よってくるには好物が必要なのだ、自分がそうであるはずはないのに。分っているのに、考え出すと不毛な思いにとらわれる。根気よさも優しさもそこそこ自信はあるのに。どうしてだ?
「俺に足りないものは何だ…」
 ぽつりと呟いた独り言のつもりの言葉を、テマリは耳ざとく聞いて、小首を傾げて応えた。
「悩み事があるのか?」
「いや、…悩みって言うようなものじゃないけどよ」
「そうか? でもまあ、はっきりしてるだろ、お前とか私とかぐらいの忍に足りないものなんて。」
 そうじゃなくて、と言いたかったが、面倒くさいので放っておいた。テマリはむっとした様子で、声を少し荒げた。
「経験だろ、経験」
 上の忍には絶対敵わないものだ、と付け加えて何を鼻にかけるのか腕を組む。シカマルは反芻する。経験。確かに、そうだ。
「そうか、あー、そうだな」
「ふん、お前も所詮まだ若造だか…」
「よし、テマリ」
 ぴょこりと起き上がり、大またに一歩テマリに近づくと、彼女の紫色の瞳が大きく見開かれた。
「なんだよお前、いきなり」
「行くぞ」
「どこに」
「デートってヤツ」
「なんで!」
 ポケットに手を突っ込み、アカデミーの屋上から出る階段の一段目に足を伸ばしながら、シカマルはやる気のない声で応えた。
「経験ってやつだよ」
 いつも同じ場所にあらわれる猫を手なずけるための大切な。

















 

 

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