23.楽園
賢すぎない烏にテマリは手を伸ばした。ばさりと羽音をたてて黒い鳥は指先にとまる。口寄せとしては使えないそれが、この瞬間だけいとおしく感じた。
「よく戻ったな」
もう片方の手で嘴を撫でてやり、それがくわえていた物を受け取る。反動をつけて宙へ腕を振り上げると、烏はまた羽をおとしながら飛び立っていった。乾いた曇天に黒い点は直ぐに消えさったから、テマリもそれを目で追うのはすぐにやめた。右手に視線をおとす。綺麗な紅葉がひと枝。木の葉に秋がやってきている。
はじめて来た時は手紙だった。不精なシカマルの事だからいつまで続くかと思っていたら、それきり文字は送られて来なかった。だからテマリも手紙を出さずにいたら、運ぶしか能のない烏が返事の代わりに草木を運ぶようになった。つまらない、当たり障りのない国や影達の近況などよりずっと面白いとテマリは思った。
「綺麗だ」
雲に漉されて淡い粒になる陽の光に紅葉葉を翳してみる。太く、けれど相反して繊細に走る葉脈を柱に、鮮やかな色紙を貼り付けたようなそれは砂の国にはない。きっとこの枝がついていた木を見上げて昼寝でもしているに違いない、とテマリは思う。ふいに物足りない気分になった。思うだけで、思い描けはしない。知らないからだ。見ていないからだ。その楽園を。
「飽きた」
嘘だと自分で確信できる。
きっと陽の光はもっと暖かくて明るいだろう。空気は肺に詰まりはしないだろう。たとえ廃墟になっていてもきっとあの里は、そういうところだから。彼がいるというだけで。
だから絡みをかこうよ自分。
|