24.「バイバイ」




建物と建物の間を吹き抜ける強い風に、テマリは反射的に目を閉じた。頬に感じるそのひりひりするような感触に前ぶれなく終わりがくるのが、木の葉に吹く風の特徴だ。砂の荒野に砂嵐が止む事はない。前髪を撫で付けながら、テマリは顔をあげた。
眩暈を起しそうな量の光に一度暗転した視界が徐々に戻ってくる、そこに見慣れた――いや、忘れがたいだけの姿を見出だす。
「…奈良…シカマルとかいったか」
名前も顔も、記憶から一向に消えないものだったが、テマリは思い出すふうを装って、彼に声をかけた。
ぼんやりした視線がテマリを見つけ、ふいに聡い光を宿す。
「砂のテマリか…何やってんだ? こんなとこで」
「気に食わない物言いをするな、お前」
テマリは少し言葉を切って、ちらと後ろの建物をみやった。嘘をつくのもはぐらかすのもつまらなく感じて、手を腰にやり先を続けた。
「風影が亡くなったから、その報告に付き合ってきただけだ」
シカマルの視線が自分の横を通り抜け、木の葉の本部に向けられたのが分かった。今おそらく彼の頭の中には父をなくした女を慰めるための台詞がいくつも候補にあげられているのだろう。テマリはそう思って鼻白みながら、シカマルの眉根に寄った皺を見ていた。同情も哀れみもごめんだった。
だから、シカマルが顔を上げて口を開いた瞬間、テマリは身構えたのだが、彼は首筋を掻き掻き、予想外の事を言ったのだった。
「あー、なんだ…どうせ今のトロい事務だ…書類の処理が終わるまで時間あんだろ? …少し歩かねェか」
予想が外れて目を瞬くテマリは面倒くさそうに目をすがめた彼が慰めを諦めた事に気がついた。
だから、気が抜けたのだろうか。
テマリはふらりと歩き出した彼に倣った。
歩かないかと言ったシカマルは本当に歩くだけでそれ以外は何もしない。会話も寄り道も。ただ並んで、戦の傷跡を流れるように見た。不思議と居心地は悪くなくなかった。
――バカか、あたしは。
敵だった人間。そしてその絆すら、戦が終われば消えるのに、居心地いいとは何事か。それもこんな廃墟の町で。自分の在り方ではないと思っても、その気持ちは膨らんでやまなかった。
そんなことを考え込んでいたからだろうか。いつの間にか、テマリの歩みはシカマルに大きく遅れをとっていた。
「どうかしたか?」
さして心配などしていなさそうな声色でシカマルが尋ねてくる。返事を選ぶ合間に、彼は早合点してテマリの顔を覗き込んだ。
「疲れたか。一応女だ、俺のペースで歩いてちゃ…」
「なめるな、時間を気にしただけだ…体力勝負でお前になどまけるか。」
珍しく口にした言い訳を恥じ、誤魔化すために少しの身長差の高みから相手を睨み下すと、シカマルは怖じずに口の端だけを歪めて相好を崩す。
「違いねぇ」
素直に認めた彼の物言いもやはり気に入らなかった。テマリは眉をしかめると視線をシカマルから分からないよう逸らした。
「でも、そうだな…結構な時間か、もう」
シカマルはやはり相手の様子に頓着せずに、呟いて、暮れかかる空に視線を投げた。
言い訳に使った言葉を、テマリは即座に後悔した。後悔した事もまた、すぐに恥じた。別れの時間を早めた己を憎む焦りにもにたいたたまれなさを消すため、また未練をよしとしない部分に忠実に、テマリは別れを切り出そうとする。あくまで顔には出さずに、「バイバイ」以外の言葉を探した。なかなか出てこない適切な言葉の代わり、浮き出てくる一つの考え。
――息の詰まるような世界じゃないここに、もっといたかった。
それを自分の中に認めて、テマリは苦笑いを浮かべて視線を上げシカマルを見た。
あの試験の時、侮り、はめられて、術のせいでなく体は凍った。その相手だ。戦という絆さえ消えたはずの相手。それが今度は、別れてしまうのを惜しいと思わす。思わされてしまう。
次第に堪えきれなくなる笑みに、シカマルが気付いて訝しそうな顔をしている。分かっていながら、テマリは沸き上がる爽に逆らわなかった。
「…んだよ」
「またな」
質問には答えずに、いとも簡単に言い放つバイバイに代る別れの辞。足の裏にチャクラを熱め地を蹴りながら、テマリはおかしくてたまらず笑い続けていた。

















 なんか書きたいこと書ききれてないので暇をみて書き直したいと思います。





 

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