29.祈り



 1度なら偶然ですませた。
 2回目は首を傾げざるを得なかった。
 3日続けば、自分はどうかしてしまったのではないかと疑いたくなるのも仕方ない。
 ―――なんて最悪な目覚め。
 ひよこみたいな淡い黄色が脳裏に焼きついてはなれない。プライドのないやつだと言って、悔しそうにそっぽを向いたあの横顔も、別れ際に見せた控えめな笑顔も、何もかもだ。けれどそんな映像も、ゆるゆると降下して忘れてしまうつもりだった。事実、木の葉崩しのごたごたの中にあって思い出すことは殆どなかったのだ。それなのに。
「なんだってんだ、くそ…」
 シカマルは掛布団を蹴飛ばした。いつも起きて一番に開く障子を開け忘れて布団を畳み、足下の暗がりに転がっていた巻物を気付かず踏みつけて転倒し尻餅をつく。忌々しく思いながら舌打ちをして巻き物を持って本棚へ行き、背表紙が読めなくて、逆方向の窓の障子を漸く開けてまた本棚へ。
 調子が狂っている。調子どころか日常生活にすら異常をきたしている。それもこれもあの女のせい、だ。
「何の恨みが…あー、試験のか……」
 口に出せば思ったよりも深刻な響きだった。のろのろと歯を磨きながら、ああ、俺もしかして恨まれてるのかも…と沈んだ気持ちになる。鏡にうつる自分の顔が、途端どよりと暗い、くすんだものになる、ような気がする。
「頼むから、勘弁してくれ」
 夢になど出てこないでくれ。
 そう呟いたところで、彼女の意志でシカマルの夢枕にたっているのでなければ、シカマルの意のままになる代物でもなければ、神を信じないシカマルの願いを他人が叶えてくれるわけでもない。けれど、シカマルは切実だった。
 どう考えたって酷な事だ。
 夢のなかで、黄色い髪がゆらゆらと揺れていて、ぱっちりとした目を瞬かせて彼女はキレイに笑った。何を言ったかすら覚えていない。ただ漠然とした心地よい感情が、彼女の言葉で自分の中に産まれたのだけは確かだ。抱きしめたかった。体は重く、決して思うとおりに動こうとしなかったから、そんなことは叶いもせずに、影はかすんで、遠くなって、消えた。
 盛大にため息がもれた。
 こんな気持ちになるなら、二度と見れなくていい。消えてくれ。自分の中のどこにも痕跡を残さずに。こんな馬鹿な動揺をおこさずにすむように。パンパンと頬を平手で挟み打って、シカマルは気合を入れなおした。
 ―――そんな切実な祈りも虚しく、再び少女と現実で出会うのはもう少し先の話。
















 

back