9.呼吸

「その程度で良かったな」
砂の助太刀を受けた件の任務からこちら、テマリに会う機会がぐっと増えた。そ
の度その度、指を見やった彼女がそう言うのでシカマルは辟易している。
あのとき折れた指は痛む事などもう勿論ない。けれどやはり少し曲げにくいし、 その部分だけ節くれている。
「下手したら指切断なんて事になったかもしれないのに、な」
「…木の葉の医療にかかればあれくらい治るっつーの」
「なにげに気に食わない言い回しをするな」
そう言って体を斜にした彼女の視線はまだ指先にある。シカマルは耐えかねて深 入りしてテマリをなじった。
「何そんなに気にしてんだよ、他人の」
テマリはすい、と目を細めた。いつもなら満足気にみせるその仕草に、今回は笑みがなかった。耐えかねたあの空気が濃くなる。ばつが悪くなりシカマルは心中 いつものめんどくせぇ、を繰り返した。
「だって、指ですんだって事だろ」
「…はぁ?」
シカマルを逃げ腰にするあの空気を色濃くしながら、テマリが眉根に皺をよせた 。
「もしかしたら指を切らなきゃならなかったかもしれない。もしかしたら指だけ じゃすまなかったかもしれない。」
そして一呼吸おいて、空気は濃度を最高にした。
「もしかしたら殺されたかも」
能面のような彼女の顔を見る息詰まりから逃れるようにシカマルは目を閉じた。
けれどすぐ、逃れるよりもその目をやめさせたくなって少し高低差のある髪に掌 をあてた。
「んな事は、息の根がとまってから考えればイイだろ」
言いながら、呼吸が止まる日などあるのだろうかと思う。けれどテマリはまだそ の目を確信した不安に揺らしているし、自分も武骨にしか掌を使えないので、分 からない。


















 

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